病気やケガ、仕事休業... 夫婦で「もしも」のお金の不安を話し合うステップ
予期せぬ出来事と夫婦のお金
私たちの日常生活は、健康であること、日々働くことが当たり前のように過ぎていきます。しかし、人生には予期せぬ出来事が起こり得ます。病気やケガで入院したり、回復に時間がかかり仕事が休業になったりといった状況は、誰にでも起こる可能性があります。
このような「もしも」の事態が発生した際に、ご自身の体調や回復に専念するためにも、お金に関する不安はできるだけ少なくしておきたいものです。そして、その安心を夫婦で共有し、一緒に備えていくことが非常に大切になります。漠然とした不安を感じている場合、それを具体的な「話し合い」という行動に変えることが、安心への第一歩となります。
なぜ「もしも」のお金の話が必要なのか
予期せぬ病気やケガ、休業などが夫婦の家計に与える影響は多岐にわたります。
- 医療費の負担: 治療内容によっては、医療費が高額になる場合があります。公的な高額療養費制度などもありますが、一時的な立て替えや、制度の対象外となる費用(差額ベッド代など)が発生することもあります。
- 収入の減少: 長期の休業となれば、給与や賞与が減額されたり、支給されなくなったりする可能性があります。傷病手当金などの公的な保障制度がありますが、それだけでは従来の収入を全てカバーできない場合がほとんどです。
- 生活費への影響: 収入が減少しても、家賃や住宅ローン、光熱費、通信費といった固定費は変わらず発生します。また、病状によっては食費や雑費が増えることも考えられます。
- 精神的な負担: 体調が万全でない時に、お金の心配まで重なると、ご本人だけでなく、看病するご家族にも大きな精神的な負担がかかります。
これらの影響を事前に想定し、夫婦で話し合っておくことで、いざという時に落ち着いて対応できるようになります。
夫婦で「もしも」のお金の話を始めるステップ
いきなり「もしもどちらかが病気になったら、お金どうする?」と切り出すのは、少し重く感じさせてしまうかもしれません。将来への備えとして、ポジティブな視点から話し合いを始めることがおすすめです。
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きっかけを見つける、または作る
- ニュースで健康や医療に関する話題を見たとき
- 職場の同僚や知人の話を聞いたとき
- 保険の更新時期が近いとき、または保険の見直しを検討したいと思ったとき
- 健康診断の結果が出たとき(結果が悪くても責めるのではなく、将来を話すきっかけに)
- 「そういえば、お互いの会社の福利厚生とか、あんまり知らないね」といった軽い話題から入る
例えば、「最近、健康について考えることが増えてね。もしも何かあった時に、お互い安心して過ごせるように、一度お金のこと話しておきたいなと思ったんだけど、いいかな?」のように、ご自身の気持ちを穏やかに伝えることから始めてみましょう。
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現状を「見える化」する まずは、現在加入している健康保険(会社の健康保険組合や国民健康保険など)や、加入している医療保険、生命保険などの保障内容を確認してみましょう。保険証券や会社の規程集などを夫婦で一緒に見る時間を作ります。
- 入院給付金はいくらか
- 手術給付金はいくらか
- がんなどの特定の病気に対する特約はついているか
- 先進医療特約はついているか
- 会社の健康保険にはどのような付加給付(医療費の自己負担上限額をさらに抑える制度など)があるか
- 病気やケガで働けなくなった場合の保障(傷病手当金など)はどのような仕組みか
これらの情報を夫婦で共有し、「これはこういうことらしいよ」「ここがよく分からないね」と話し合うだけでも、現状の把握が進みます。
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具体的な影響について話し合う 現状の保障を踏まえた上で、具体的な状況を想定して話し合います。
- 「もし、〇〇さんが入院したら、医療費の自己負担はだいたい月にいくらくらいになりそうかな? 高額療養費制度を使うとどうなるんだろう?」
- 「もし、しばらく仕事に行けなくなったら、お給料はどれくらい減っちゃうかな? 会社の傷病手当金って出るんだっけ?」
- 「もし、収入が減ったとして、毎月の固定費(家賃/ローン、光熱費、通信費など)は変わらないよね。生活費はどれくらい必要だろう?」
こういった具体的な問いかけをすることで、漠然とした不安が具体的な金額や状況に置き換わり、必要な備えが見えてきます。全ての可能性を網羅する必要はありませんが、ある程度のシミュレーションは有効です。
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「どう備えるか」を検討する 現状の保障と、想定される影響を踏まえ、今後の備えについて話し合います。
- 「今の医療保険で十分かな? それとも、もう少し手厚い保障が必要だろうか?」
- 「病気で働けなくなった時のために、就業不能保険のようなものを検討してみる?」
- 「緊急時のために、生活費として最低〇ヶ月分くらいの預貯金があると安心だね。今どれくらい貯金があるか確認してみよう。」
- 「もしもの時は、この支出は抑えられるかも、という部分はどこだろうか?」
いきなり結論を出す必要はありません。様々な選択肢について情報収集し、お互いの意見や価値観を尊重しながら、時間をかけて話し合っていくことが大切です。例えば、保険について調べるなら、「一緒に資料請求してみようか」「保険の相談窓口に行ってみるのもいいかもね」など、協力する姿勢を見せることが、話し合いを前に進める力になります。
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話し合った内容を記録し、定期的に見直す 話し合った内容や決めたことを簡単にメモしておくと、後で見返す際に役立ちます。また、家族状況や収入、社会制度などは変化していくものです。一度話し合っただけで終わりにするのではなく、年に一度など定期的に見直す機会を設けることをおすすめします。
感情的にならずに話し合うためのヒント
お金の話は感情的になりやすい側面もありますが、「もしも」の備えに関する話し合いは、お互いを思いやる気持ちがベースにあるはずです。
- 相手を責めない: 「なぜ保険に入ってないの?」「なんでそんなことも知らないの?」といった相手を責めるような言葉は避けましょう。知らなかったことを確認し、これから一緒に考える、というスタンスが重要です。
- 「分からない」を認め合う: お金や保険、公的制度は複雑で、全てを理解している人は多くありません。「分からないね。一緒に調べてみようか」と、お互いの不確かさを認め、協力する姿勢を見せましょう。
- 事実に基づいて話す: 「これくらいの医療費がかかるらしいよ」「この制度を使うと自己負担はこうなるみたいだよ」など、感情論ではなく、調べた事実や情報に基づいて話を進めることで、冷静さを保ちやすくなります。
- 休憩を挟む: 話が煮詰まったり、少し雰囲気が悪くなったりしたら、無理に進めず休憩を取りましょう。「ちょっと疲れたね、また明日話そうか」と切り上げる勇気も大切です。
まとめ
病気やケガといった「もしも」の出来事は、考えるだけで不安になるかもしれません。しかし、その不安を夫婦で共有し、具体的に話し合うことで、必要な備えが見えてきます。これは、単にお金を準備するだけでなく、お互いを支え合い、将来を共に築いていくという夫婦の信頼関係を深める機会にもなります。
最初の一歩は、現状を確認し、穏やかに問いかけることから始まります。全てを一度に解決しようとせず、少しずつ、繰り返し話し合っていくことで、夫婦にとって最善の安心を築いていくことができるでしょう。