話しにくい親のお金の話 夫婦でデリケートなテーマを共有するステップ
夫婦で話し合うべきお金のことには、家計の管理や将来設計、資産形成など、様々なテーマがあります。その中でも、多くの夫婦が話しづらいと感じているテーマの一つに、「親のお金」に関する話題があるのではないでしょうか。
実家や義実家の財産、将来の介護費用、相続に関することなど、デリケートな話題であり、どのように切り出して、どのように話せば良いか悩ましいと感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、この「親のお金」に関する話題は、自分たちの将来設計や経済的な安心にも大きく関わってくるため、避けては通れない大切なテーマです。
この記事では、夫婦で「親のお金」に関するデリケートなテーマを、感情的にならず、お互いを尊重しながら共有するための具体的なステップと、話し合いのヒントをご紹介します。将来への漠然とした不安を和らげ、夫婦でともに支え合うための一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。
なぜ「親のお金」の話はデリケートなのか
夫婦にとって「親のお金」に関する話題が話しにくい背景には、いくつかの理由が考えられます。
- プライバシーの問題: 親自身の財産や経済状況は非常に個人的な情報であり、親自身が共有を望まない場合や、夫婦が立ち入ることに抵抗を感じる場合があります。
- 感情的な側面: 親の老いや介護、そして将来的な相続といった話題は、どうしても感情的な側面を伴います。お互いの親に対する思い入れや、将来への不安などが複雑に絡み合うことがあります。
- 価値観や期待の違い: 夫婦それぞれが育った環境や親との関係性によって、親の世話や将来のサポートに対する考え方、相続に対する期待などに違いがある場合があります。
- 「まだ先のこと」という意識: 具体的な問題が起きていない場合、「まだ大丈夫」「縁起でもない」と考えて、話し合いを先延ばしにしてしまいがちです。
こうした理由から、つい蓋をしてしまいがちなテーマですが、いざという時に慌てないためにも、少しずつでも夫婦で情報や考えを共有しておくことが大切です。
話し合いを始める前の準備
デリケートなテーマについて話し合う際は、いきなり本題に入るのではなく、いくつかの準備をすることで、よりスムーズに進められる可能性があります。
- まずはご自身の状況整理: ご自身の親御さんについて、現在把握している状況(健康状態、生活スタイル、経済状況の概略、将来について話したことがあるかなど)を整理してみましょう。可能であれば、ご自身の兄弟姉妹とも、親に関する情報や考えについて、少し話しておくことも有益かもしれません。
- 話し合いの目的を明確にする: なぜこの話を夫婦でする必要があるのか、その目的を明確にしましょう。「すぐに何かを決めるためではなく、お互いの親の状況や将来の漠然とした不安を共有するため」「もしもの時に備えて、考えられる選択肢を知っておくため」など、話し合いのハードルを下げる目的設定が有効です。
- 適切な場とタイミングを選ぶ: リラックスして話せる時間と場所を選びましょう。子どもが寝た後や、休日の落ち着いた時間など、夫婦二人が落ち着いて向き合えるタイミングを選びます。短時間でも構わないので、定期的に話す時間を持つ意識も大切です。
デリケートなテーマを話し合うための具体的なステップ
準備が整ったら、実際に夫婦で話してみましょう。以下のステップを参考に、焦らず、お互いの気持ちに寄り添いながら進めることが重要です。
ステップ1:まずは情報共有から始める
最初に、お互いがそれぞれの親について知っている情報(健康状態、日々の様子、将来についての親の希望など、深い経済状況でなくとも構いません)を静かに共有してみましょう。
- 「うちの母、最近〇〇が気になってるみたいで…」
- 「お義父さん、〇〇について将来こうしたいって話してたことある?」
このように、責めたり追及したりするのではなく、「情報として知っておきたい」「お互いの親のことを少しでも分かり合いたい」という姿勢で話します。
ステップ2:お互いの「親」への思いや漠然とした不安を共有する
次に、お互いの親に対する思いや、将来について感じている漠然とした不安を共有します。
- 「私の両親、高齢になってきて、もし介護が必要になったらどうしようかなって、時々不安になることがあるんだ」
- 「君のご両親、すごく元気だけど、将来何かあった時に、僕たちに何ができるか、一緒に考えておけたら安心かなと思って」
大切なのは、「私は〜と感じる」「〜という点が心配だ」と「Iメッセージ」で伝えることです。相手やその親を否定するような言葉は避け、「私たち夫婦にとって、お互いの親の将来は共通の課題だ」という意識を持つことが重要です。
ステップ3:デリケートな話題への具体的な切り出し方
いざ、介護費用や相続といった具体的なお金の話に触れる際は、慎重に切り出すことが必要です。
- 「最近、テレビで高齢者のお金に関するトラブルのニュースを見たんだけど、もしもの時のために、少し情報として知っておきたいなと思って。すぐに何かを決めるわけじゃないんだけど、一緒に少し勉強してみない?」
- 「将来、お互いの親が高齢になって、もしサポートが必要になった時に、どんな選択肢があるか、どんな制度があるのか、一緒に調べてみない? そのために、少しお金の話も出てくるかもしれないけど…」
- 「相続のことって、まだ早いかもしれないけど、もし何か情報があれば、夫婦で共有しておけたら将来の安心につながるかなと思うんだ」
このように、いきなり「親の財産は?」「相続どうする?」と問うのではなく、外部の情報(ニュース、本、ウェブサイト)をきっかけにしたり、「将来の安心のため」「情報共有のため」と目的を伝えたり、すぐに結論を出さないことを強調したりすることで、相手の心の準備を促すことができます。
ステップ4:話し合いの際に心がけること
- 相手の親を尊重する: 相手の親御さんに対する敬意を常に持ちましょう。たとえ経済状況に問題がありそうだと感じても、相手の親を否定したり、批判したりするような言葉は厳禁です。あくまで「お互いの親がもし…」という視点で、自分たち夫婦の課題として捉えましょう。
- 感情的になりそうになったら中断も検討する: 話し合いが白熱し、感情的になりそうだと感じたら、一度中断する勇気も必要です。「ごめん、少し感情的になりそうだから、また落ち着いて話せる時に改めて話そう」などと伝え、クールダウンの時間を設けましょう。無理に続けても、良い結果にはつながりにくいものです。
- 客観的な情報を活用する: 介護保険制度、相続の基本的な仕組み、成年後見制度など、客観的な情報を参照しながら話すことも有効です。専門家の意見を聞くことも選択肢の一つであることを共有しても良いでしょう。
- 一度に全てを決めようとしない: デリケートで複雑なテーマです。一度の話し合いで全てを解決しようとせず、まずは情報や気持ちの共有から始め、少しずつ理解を深めていく意識を持ちましょう。定期的に短時間でも良いので、継続的に話す習慣をつけることが大切です。
夫婦で話し合うべき「親のお金」に関するテーマ例
具体的にどのような内容について話し合う可能性があるのか、いくつか例を挙げます。これら全てについて一度に話す必要はありません。現在の状況に合わせて、無理のない範囲でテーマを選んでみてください。
- 親の現在の経済状況: 把握している範囲で構いません。預貯金、不動産などの資産、借入の有無など。
- 将来発生しうる費用への備え: 介護費用、医療費、施設入居費用など、高齢になった際に必要となる可能性のある費用について、どの程度備えがあるか、不足分をどうするかなど。
- 親が認知症になった場合の財産管理: 任意後見制度や家族信託など、事前に検討できる制度について。
- 親からの経済的援助: これまで受けた援助、今後受け取る可能性のある援助、その使途など。
- 親への経済的援助の可能性: 自分たちが親に対して経済的な援助をする可能性はあるか、あるとしたらどの範囲まで可能か、夫婦それぞれの考え。
- 相続に関する親の意向: 遺言書の有無、相続財産、相続人(兄弟姉妹)との関係など。
- 自分たちが親から相続する可能性: どの程度の財産を相続する可能性があるか、それに対する夫婦の考え方、相続税について。
これらのテーマは、夫婦の将来設計(住宅購入、子どもの教育費、自分たちの老後資金など)とも密接に関わってきます。親のお金について夫婦で共有・検討することは、自分たちの未来への備えを具体的に進める上でも重要なステップとなります。
まとめ
親のお金に関する話題は、夫婦にとって非常にデリケートであり、話し合いを避けがちなテーマかもしれません。しかし、将来の介護や相続といった問題は、いつか現実となる可能性があり、夫婦で共有しておかないと、いざという時に混乱したり、夫婦間に溝ができたりする原因となることもあります。
話し合いは、いきなり核心に触れるのではなく、まずは情報共有から始め、お互いの親への思いや将来への漠然とした不安を共有するなど、丁寧なステップを踏むことが大切です。相手の親への配慮を忘れず、感情的になりそうになったら休憩するなど、落ち着いて話せる工夫をしましょう。
すぐに全ての答えが見つからなくても構いません。夫婦でこのデリケートなテーマに一緒に向き合い、情報や気持ちを共有し始めること自体が、将来への漠然とした不安を和らげ、夫婦の信頼関係をより一層深める大切な一歩となります。お互いに支え合いながら、少しずつでもこの重要な話し合いを進めていくことをお勧めします。