夫婦でお金の全体像を把握する話し合い方 不安を安心に変える第一歩
お金について、どこから手をつけて良いか分からない漠然とした不安を抱えている方は少なくありません。特に夫婦間では、お金の話がタブーになっていたり、お互いの状況をよく知らなかったりすることで、将来への不安が増してしまうことがあります。
この漠然とした不安を具体的に捉え、安心への第一歩を踏み出すためには、まず夫婦でお金の「全体像」を把握することが重要です。現在の収入、支出、貯蓄、そして負債(借入など)といった、家庭のお金の現状を二人で共有し「見える化」することで、次の行動が見えてきます。
なぜ夫婦でお金の全体像を把握する必要があるのか
夫婦でお金の全体像を把握することは、いくつかの大切な目的があります。
第一に、漠然とした不安を具体的な課題に変えるためです。「なんとなくお金がない」「将来が心配」といった感覚的な不安は、具体的な数字に落とし込むことで、どこに問題があるのか、何から取り組むべきなのかが明確になります。
第二に、夫婦間での認識のずれを解消するためです。お互いがどのくらいの収入があり、何にどれだけ使い、どのくらい貯蓄があるのかを知らないと、話し合いは進みません。共通の認識を持つことが、協力して課題を解決するための土台となります。
第三に、将来のライフプランや目標(住宅購入、教育費、老後資金など)を具体的に計画するための基礎情報となるからです。現状を知らずして、将来の目標を設定し、それに向けてどのように行動するかを決めることは困難です。
お金の全体像とは具体的に何を把握することか
夫婦で把握すべきお金の全体像には、主に以下の項目が含まれます。
- 現在の収入: 手取り額を把握します。共働きの場合は、お互いの収入を合算した世帯収入を把握します。源泉徴収票や給与明細を確認すると良いでしょう。
- 現在の支出: 毎月、あるいは年間の支出額を把握します。
- 固定費: 住居費(家賃、ローン)、光熱費、通信費、保険料、車の維持費(ローン含む)、定額サービス料など、毎月(毎年)一定額がかかるものです。
- 変動費: 食費、日用品費、被服費、医療費、娯楽費、交際費など、月によって金額が変わるものです。家計簿や家計簿アプリ、クレジットカードの明細、銀行口座の履歴などを活用して、現状を洗い出してみます。
- 現在の貯蓄・資産: 預貯金(普通預金、定期預金)、投資信託や株式などの金融資産、個人年金保険や終身保険の解約返戻金、不動産など、現在保有している資産をリストアップします。
- 現在の負債: 住宅ローン、自動車ローン、教育ローン、カードローン、キャッシングなど、現在借り入れがあるものをリストアップします。それぞれについて、借入先、残高、毎月の返済額、金利などを確認します。
これらの項目を一つずつ整理することで、現在の家庭のお金の状況が立体的に浮かび上がってきます。
夫婦で全体像を把握するための話し合いのステップ
お金の全体像を把握するための話し合いを始めるにあたって、いくつかステップを踏むことが有効です。
ステップ1:話し合いの必要性を共有し、同意を得る
まず、なぜ今お金の話をしたいのか、その必要性をパートナーに伝えます。「漠然とした将来の不安があるんだけど、一度二人で今の家のお金の状況を整理してみないかな」「これからのことを一緒に考えていきたいから、まずはお金について知っておきたいんだ」のように、相手を責めるのではなく、自分の気持ちや前向きな目的を伝えるように心がけましょう。
ステップ2:話し合うタイミングと場所を設定する
リラックスして話せる時間と場所を選びます。子どもが寝た後や休日など、落ち着いて、ある程度まとまった時間が取れる時が良いでしょう。カフェや静かな公園など、いつもと違う場所を選ぶと、普段は話しにくいテーマでも話しやすくなることがあります。
ステップ3:現在の状況をそれぞれリストアップ・可視化する
話し合いの前に、可能な範囲で各自が把握している収入、支出、貯蓄・資産、負債の情報を集めておくとスムーズです。給与明細、通帳、カード明細、保険証券、ローン契約書などを用意し、簡単なリストやグラフを作成してみるのも良いでしょう。スプレッドシートや家計簿アプリなどのツールを使うと整理しやすくなります。
ステップ4:お互いのリストを共有し、正直に現状を伝え合う
いよいよ話し合いです。作成したリストや集めた資料を共有し、お互いの状況について正直に話します。
- 話し方のコツ:
- 事実に基づいて話す:感情的にならず、「手取りは〇〇円です」「毎月の食費は約〇〇円かかっています」のように具体的な数字や状況を伝えます。
- 「私は〜と感じる」と伝える:「もっと節約すべきだ」と言うより、「毎月の支出を見て、少し多いと感じているんだ」のように、自分の感情や考えを主語を「私」にして伝えます。
- 責めない:相手のお金の使い方や状況について、批判的な言葉遣いは避け、「これはあなたを責めるための話ではなく、二人で協力して将来のために知っておきたいことなんだ」という姿勢を示します。
- 聞き方のコツ:
- 最後まで聞く:相手が話している途中で遮らず、最後までしっかり聞きます。
- 共感を示す:全てに同意できなくても、「そう感じているんだね」「大変だったね」のように、相手の気持ちに寄り添う言葉を伝えます。
- 質問する:不明な点や疑問点は、「これはどういうことかな?」「もう少し詳しく教えてもらえる?」のように、穏やかに質問します。
具体的な会話例:
妻:「今日、これからのことについて話したいってお伝えした件なんだけど、今って大丈夫?」 夫:「うん、大丈夫だよ。どんな話?」 妻:「漠然とした不安があるんだけど、一度二人で今のお金の状況を整理してみないかなって思って。将来のために、今の収入とか支出とか貯蓄とか、把握しておきたいんだ。」 夫:「なるほどね。確かに、ちゃんと考えたことなかったな。」 妻:「うん。まず、今の手取りをそれぞれ共有しない?私の手取りはこれくらいなんだけど、あなたはどうかな?」 夫:「僕のはこれくらいだよ。」 妻:「ありがとう。次に、毎月の支出をざっと計算してみたんだけど、大体〇〇円くらいみたい。家賃とか光熱費とかは固定で、食費が結構かかってるかなと感じるんだけど、あなたはどう思う?」 夫:「そうだね、食費はもう少し抑えられるかもしれないな。」 妻:「預貯金は〇〇円あるんだけど、他に何か資産とかある?例えば、保険の積み立てとか。」 夫:「そういえば、会社の持ち株会とか、個人型確定拠出年金(iDeCo)をやってるよ。」 妻:「そうなんだね、知らなかった。いくらくらい積み立てられているか、今度一緒に見てくれる?あと、借入とかはある?住宅ローン以外で。」 夫:「住宅ローン以外は、車のローンがあと〇〇円残ってるくらいかな。」 妻:「分かった。ありがとう。こうやって全部並べてみると、今の状況が見えてくるね。一度で全部は無理だと思うから、今日はここまでにして、また来週のこの時間に続きを話せないかな?」 夫:「うん、いいよ。なんとなく分かってきた気がする。」
ステップ5:現状について感じたことや疑問点を話し合う
共有した情報をもとに、お互いがどう感じたのか、疑問に思うことはないかを話し合います。「支出が多いと感じた」「思ったより貯蓄があって安心した」「この借入って何?」など、率直な感想や疑問を共有します。
話し合いをスムーズに進めるためのコツ
- お互いを尊重する姿勢: 相手のお金に対する考え方や使い方を頭ごなしに否定せず、一つの意見として尊重します。
- 「正解」を探すのではなく「二人の納得解」を見つける: どちらかのやり方が絶対的に正しいわけではありません。夫婦二人が納得できる方法や考え方を見つけることを目指します。
- 一度で全てを解決しようとしない: お金の話はデリケートで、一度の話し合いで全ての全体像を把握したり、全ての問題を解決したりするのは難しい場合があります。定期的に、継続して話し合うことを前提としましょう。
- 共通の目標を見つける: 現状把握の次は、将来について話し合う段階に進みます。「なぜお金の全体像を把握したかったのか」という最初の問いに戻り、不安を解消し、どのような未来を創りたいのか、具体的な目標設定に繋げていく視点を持つと、前向きに話し合いを進めることができます。
まとめ
夫婦でお金の全体像を把握することは、漠然とした不安を和らげ、将来への安心感を築くための不可欠な第一歩です。現在の収入、支出、貯蓄、負債を正直に共有し「見える化」することで、家庭のお金の「今」を知ることができます。
最初は話し出すのが難しく感じられるかもしれませんが、今回ご紹介したステップや話し方のコツを参考に、穏やかな気持ちでパートナーと向き合ってみてください。お互いを尊重し、協力して現状を把握するプロセスそのものが、夫婦間の信頼関係を深め、将来への希望を共に描く力となるはずです。一度で完璧を目指さず、継続的な話し合いのきっかけとして捉え、ゆっくりと二人のペースで進めていくことが大切です。